「さをり」を始めて
半年ばかりたった頃、
あるデパートで
織りの無料講習会を開いた。
その時、
受講してくださった編み物の先生が、
その後、
わざわざ私の家まで訪ねてくださり、
「先生はね、
長い間かかって見つけられた、
いくつもの貴重なアイデアを、
公衆の面前で、
しかも無料でみんなにばらしておしまいになる。
あまりにももったいないと思われませんか?
今に裏切られて泣きを見ますよ」
と、
忠告してくださった。
この場はただ、
この方の行為に感謝すべきだと思った。
しかし、
心の奥底では、
「どうしても忠告に従うわけにはいかない」
と思っていた。
引き続いて
無料講習会をつづけて行った。
そして思った。
私は
全部はき出しても、
次から次へと
新しいことを見つけていけばいいのだ
と。
はたして、
私の考えは間違っていなかった。
私がはき出した
ヒントやアイデアは、
それ以上に発展していった。
一人一人が
私から受けたものを
さらに自分なりに変えていったのである。
小さなアイデアがこんなに実る。
何倍もの大きさに発展する。
こんなすばらしいことがあるなんて。
一時の迷いなど
すっかり吹っ飛んでしまった。
その後、
「さをり会」に入会する人たちには、
必ずこう言うことにしている。
「私は
自分の見つけたアイデアを
みんなに披露しました。
みなさんは、
それをさらに発展させてください。
自分の見つけたアイデアが惜しいから、
他人に教えてやらないというような
ケチな料簡はおこさないでください。
自分のものを全部出してください。
そのかわり、
人のものも遠慮なくいただいてください。
アイデアは
お互い、
みんなの共有のものとします」
この考えが、
「さをり」を成長させてくれた。
この考えでやってきたことによって、
大勢の力が結集されたのである。
世の中とは不思議なもので、
ほんの些細なことから
変わっていくものである。
でも、
その動きは、
人に感じとってもらうことから始まる。
ふれ合いが必要なのである。
心にふれるなにか、
心を動かすなにかが要る。
幸いなことに、
その心を動かすものが
オシャレと合致した。
『わたし革命 ~感性を織る~』 城みさを著
(神戸新聞出版センター 1982年刊 ※絶版)より