10月25日(火曜日) 山形にて
今にも降り出しそうな空模様。宿から傘を借りて芭蕉の句碑が有るという医王寺に向かう。源義経の家来の佐藤兄弟のお墓や芭蕉の資料館も有る由緒正しいお寺。樹齢何百年と思われる杉並木を散策していると、みさを先生が足を止めて「あの屋根がとってもいい感じなので、ここで写真を撮ろう。」と仰る。資料館を見学してからパンフレットを見ると、ちょうど今し方みさを先生が良いと言って写真を撮ったスポットが、角度も何もかもが寸分違わず載っている。「うーん、さすがはみさを先生、目の付け所が・・・!」と感心する。
前方を見ると立派な鐘撞堂が有って、観光客が鐘を突いている。何時でも誰でも突いて良いらしく、一突きで3歳寿命が延びるそうだ。何でもやってみたい私は、みさを先生を誘って釣鐘の前に立つ。先ずは私が! と、体力自慢の私は力任せにゴン、ゴン、ゴンと鐘を突き続けた。
下から研三さんが叫ぶ「それでは、早鐘や!」 みさを先生が横から「あんた、余韻を聞きなはれ、鐘は余韻を聞きながら振り子の原理を利用して少しずつ振りを大きくしていって、後は軽く手を離すつもりでいいんや。」と仰る。へえ~ッ、なるほど! 福島のプロの尺八奏者の橘さんが見かねて(聞きかねて?)駆け上ってくる。みさを先生は上手に3回撞かれた。これで、寿命は9歳延びた。良かった!
私はというと、みさを先生に鐘の撞きかたまで伝授してもらったが何回突いたのか分からない! 兎にも角にも沢山突いたので、寿命は物凄く延びた・・・はず。
午前10時「アートさをり」に到着、達也さんも東京から新幹線で合流。「アートさをり」は部屋いっぱいの人で溢れかえっている。みんな、満面の笑みと拍手で迎えてくれる。みさを先生のお話。橘さんの指導だという「アートさをり」のみんなの尺八の合奏と歌。そしてみさを先生のサイン会。傍らでは研三さんが、八戸から新幹線で参加してくれた二人に実技講習をしている。いつも思うのだが、楽しい時間はあっという間に過ぎる。
昼食の時、「えご」という海草を寒天のように固めたものを差し入れて下さった方が居て、会津の郷土料理だという。みんなで味見をするが・・・。ちょうど、ふのりを固めたような感じで、酢醤油でいただくがかなり海草の匂いがきつい。それでも私は、ダイエット食品と思えば良いとか、酢味噌の方が合いそうとか考えながら三切れほどご馳走になる。ふと、隣のみさを先生のお弁当を覗くと、コロンと一切れその「えご」為るものが残っている。「先生、お好きですか?」私の問いに、みさを先生は無言で首を横に振る。その後暫くは、「えご」が話題の主役になった。
1時過ぎ、「アートさをり」のみんなに見送られて芭蕉縁の地「文知摺観音」に向う。芭蕉の句碑や百人一首に「みちのくの 忍ぶもちずり 誰ゆえに みだれそめにし 我ならなくに」と歌われている文知摺石を眺めながらいにしえを偲ぶ。風が強く、落ち葉が舞い散る坂道を歩きながら、みんなで「素敵ね!」「寒い、寒い。」を繰り返す。 福島の方達が下見をして下さっていたとかで、なんでもぶっつけ本番の私は頭が下がる。
本当に本当に、あっという間に時間は過ぎる。お名残惜しいけれど福島の皆さんにお別れして一路山形へ。当初の私の計画では、飯坂から13号線を利用して栗子峠を越えて米沢、南陽、上山、山形、と温泉と果物の町々を貫けて、今夜の宿のある天童へと向かうつもりだった。
13号線は福島から山形、秋田、青森を一直線に結ぶ日本海側の主要道路で、私はこの道が大好きである。いかにも東北! といった箇所があちらこちらに点在する。
でも、少し予定を遅れての出発に山形の方たちをお待たせする事になるだろうと考え、残念だけれど、栗子峠の紅葉は奇麗だろうけれど、東北自動車道で行くことをを選択する。東北自動車道から山形自動車道に入る。日暮れは間近、ドンドンドンドンひたすら走る。研三さんは後部座席から身を乗り出してスピードメーターと睨めっこ。 達也さんはとっても気持ち良さそうに眠っている。研三さん、もうまな板の上の鯉なんですからみさを先生を見習って大船に乗った気分でどうぞ! ウーン、無理か・・・。
「秋の日はつるべ落とし」昔の人はうまいことを言うものだなどと思いながら、天童に着いた頃には日はとっぷりと暮れていた。私は天童には何度も訪れているので土地勘は有るつもり。道の駅を横目で見ながら温泉街に入る。三叉路の手前のお店で「天童ホテル」を聞こうと思っていると、研三さんが「あそこの道の駅で聞いたらエエ。」と言う。夕べの迷子の二の舞は踏みたくないらしい。きっと、お三方とも私を信用していないだろうと、私はしぶしぶ、少し戻って聞く。マップも貰った。再度、出発!
三叉路のところで、「ここや、ここを右!」研三さんが叫ぶ。もう少し先だとおもうけれど・・・? 夕べの事が有るので弱気な私。でも、やっぱりチョット違うみたい! 今夜も・・・プチ迷子。もと来た場所へと方向転換して少し走ると、達也さんが「あっ、あそこに!」右斜め前方にそびえ立つ今夜の宿「天童ホテル」発見。
ホテルのロビーでは阿部さんはじめ山形の方々が、色紙やみさを先生にお見せしたい作品を手に手にお待ちかね。「お部屋へ行きましょう。」と声を掛けるが「お疲れでしょうから、ここで。」とそのままロビーで店開き。周りの人達はどんな風に思うだろうかと初めは少し気に為ったが、みさを先生の作品に対する的確な指摘に感心しながら、他人事ではないと夢中になる。私は「なにやらゆかし」を忘れていた。最近は俗化している。初心に戻らねばと反省する。
★「奥の細道紀行」リレー報告6番手:及川恵美子 その2
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