話は下って、
私が七十幾歳かの頃。
津久野へ居を移して朝の散歩に。
お隣の村には
行基の古刹がある。
文殊さんで有名な、
入学試験が近づくと
急にお参りの増えるお寺である。
何気なく歩いていると、
道に瓦のかけらが落ちている。
お堂の一つが
行基誕生塚のお堂の
屋根葺き替えがなされている。
その大きなかけらを拾ってみた。
文字がある。
あれっと読んでみると、
「堀上森内製」とある。
あっ、あの森内なのか…
と急に身近なものに感じて、
そっと拾って帰った。
そして自分のアトリエの棚に…。
折よくその頃祖母の法事、
それも最後の法事があった。
五十回忌であった。
私はそのお供え物を持って
森内家へ行った。
そして、
「堀上に森内家の瓦屋は他にありますか?」
とお尋ねした。
「いいえ、うち一軒です。」
とおっしゃる。
「ああ、それでわかりました。
家原文殊で屋根の葺き替えで
落とした瓦の一つに
「堀上森内製」とあったのです。
それでは間違いなくこの家の製品なのですね。
その落とした瓦は随分古い昔のもの。
その時の瓦も
全部お宅の工場で作られたものだった…。」
と、
なんとも言えぬ親しさを感じたことであった。
私はその瓦を持ち続けたいと。
棚の上で…。
遠い昔を思っていたのであります。
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