それは九州佐賀でのことであった。「ここに可愛いいネコちゃんの絵があります」と皆様にお見せしながら、「そしてその可愛さにつられて、その横にこのようなすばらしい作品が織られているのです。見てください。このネコちゃんの絵の可愛さが、人の心をゆさぶり、次にこのようなすばらしい織りができたのですよ。見てください、このように人は知力ではなく感力で動くのですよ。」と話した後、私は演壇を降りた。その時突然ひとりの青年が『あの絵は僕が描いた!』と名乗り出た。
私は驚きながら「へぇ、あなたがあの絵を描いたのね、すごいすごい」と感心しながら、じっと彼を眺めていた。すると「先生、あの息子が初めてものを言いました!先生だけにはものが言えたのです!」と彼の母親が喜びのあまり泣き出しました。
突然の展開に驚き、あの青年が初めてものを言ったということが信じられないまま、次の会場へお送り下さる方がお待ち下さっていたので、交わす言葉もなく、心を残しつつも私はその場を立ち去りました。
あの可愛いネコちゃんの絵、あれは天の神様の描かれた絵ではないか、とグッと胸にこたえた私。そして息子さんが初めてものを言ったという母の驚き。それも天のしわざなのだろうか。私のような凡人には分からない。惜しいことにゆっくりお話させて頂くことができなかったことを今改めて悔いております。
しかしあの絵は今も私の頭に鮮明に残っています。見つめても見つめても飽きない可愛い絵。ネコ嫌いの私さえも感動させた絵(ここで実物をご紹介できず、すみません)。その絵を彼が描くことができた“素”はどこから出るのか。あの絵を描かせた力なるものは一体何なのか。彼の頭の中で何が起きたのか。すべては彼の内なるものによってであることだけは確かです。
大切なのは薬ではなくて心の動きなのだ。感性なるもの、天から授かったものこそが大切なのだ。我々にはとうてい理解できない深い深い大切なものがある!ならばそこに導くことの重大さ。小さな私になどには分からないけれど、とても大切なことがあるのです。
(2004年11月・345号)
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