なるほど、
たしかに筬を飛ばして
たて糸が通っている。
でも、私は、
これを模様だと思っていた。
思いもよらぬところに
いいたて縞ができた
と思っていたのに、
織屋はそれを
傷という。
その時、
あ、そうだ。
織屋は、
傷をつくらないように、
万全を期して努力をしているんだ。
私は、
反対に傷をつくってやろう。
そうすれば、
手織りらしくなる。
と、
頭にひらめいた。
そして、
傷を1本ではなく、
たくさんつくることにした。
後日、
その帯は、
心斎橋筋の帯専門店のご主人に
「城さん、
これはいい帯ですな。
これが絹だったら、
すごい値段で売れますよ」
と
言われたものである。
私は、
「ヘエッ」と言ったまま
信じられなかった。
昨日まで
まるで素人の私に、
そんな帯が織れるわけはない。
やっと2本目を織った私に、
そんな良いものが織れるはずがない。
どうしても信じられないような顔をしている私に、
「こんないい味の帯が
どこにありますか。
欲しい人なら、
いくら高くても買いますよ」
と、
ご主人は力強く言った。
糸も
近所の工場から
捨てるような白いスフ糸をもらってきて
織ったものだった。
『わたし革命 ~感性を織る~』 城みさを著
(神戸新聞出版センター 1982年刊 ※絶版)より
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