東京へ。東京パイロットクラブのお招きに預かり、霞ヶ関ビルの講演会でお話してきた。その折、久しぶりに青山から表参道を歩いた。
「奥さん、ウラ着てはりまっせ」から30年・・・。道行く人の服装が、特に東京は、ずいぶんと様変わりしていることに驚いた。若者の感性はそのままそっくり時代に溶け合って、それはまさに何でもありそのままとなった。さをりかと見まがうほど、さをりらしい布・仕立てっぷりで、こう言うと若い人に叱られるのだが、私には世の中の人が皆、さをりのマネをしている様に思えて仕方がない。レストランで見た山本寛斎さんデザインのステキなベストを見ても、一見さをりに見える。
しかし、それ以上に、吾々は先天的に持って生まれた感力を引き出すことによって、自分を表現できるという自信がある。プロ以上の点に成り得ると確信した。長生きは有難い。またひとつ見つかった。
代々木のスタッフの達也くんと近藤さんの「切ったら血が出る展」を見た。さをりの目的は古い畠を掘り返して新しい種をまくものである。今回出会ったこの作品展は、表参道をちょっと入ったしゃれたギャラリーであったが、内容はどうしてどうして、誰にも負けない。小さな空間に布だけがスッキリと飾られている。「どうだこれが解らぬか!」と大上段に自らの感性を見せびらかせたいようだ。布だけで勝負するという、作者の心意気を感じると共に、そこには美意識なるものは忘れてならないものとして厳然と存在していることを同時に掴むことができた。哲学的思想的その上に今を生きている人間の、見えない感性を形にしたものといえるところに大いに心強く思った。情は知を動かし、意を働かせて自分の想いを表現する。そのものズバリをここでやっている。嬉しかった嬉しかった。これでこそ流れは正しく行われている!と感じてホッと安堵した。
若い人達はそっとそっと自分の好きに織れて、それで良しの時代となりつつある。だから語りかけも変えようと思う。自分の中のどこが好き?を自分で確かめるようになった。4つのスローガンのひとつを「思い切って冒険しよう」ではなく、「楽しんで冒険しよう」と変えたくなった。老人の私がとやかく言う必要がない時代となったのではないか。
伝えたい。若者よ、のびのびと自分を育てよう! 時の流れに沿って自分を見つけ出すこと。それを最も大切なもの、最後まで健在である感性、天の思し召し通りの大切な感性を柱に生きよう。それを忘れなさんな。平気で楽しんで冒険できるようになったのだから。いい時代に生きているのだから。
テレビで引きこもり云々を嘆いている。ところが「さをりは不思議ですね。人が振り廻されるんですね。振り廻されていることがとても楽しいんですよ。どこか大きな力が働いて人を振り廻さねばいけない時代なんですね。」とお医者さんがおっしゃってくれている。さをりは織っている人だけが楽しいのじゃなくて、周りのみんなが一緒になってウキウキする。人に教わって知ったことは嬉しくないが、自ら見つけたものは最高に嬉しい。その悦びはエスカレートする。人をウキウキさせる悦びを引きこもりの人にも体感してもらいたいと思った。
(2003年10月・332号)
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