その時、よし名古屋で一遍みんなにびっくりしてもらおうと思ってこういうのをやりました。絹で経糸を張りました。絹の経糸、その経糸によく似合う緯糸をやりました。その何本か合わせて、能率の上がるように何本か合わせて絹糸をやります。その中の絹糸の緯糸の一本を色を変えて、どんどこどんどこ、また色を変えて、また色を変えて、また色を変えて、一本をパッパッパッパ変えて、経の通りだけはスカッと一つに通して、そしてバランスよく面白く、次に来る面白い色を入れながらズラーと織ったんですよ。どこを継いでも同じところがない着物ですよ。それでいて一つのトーンが保てている。それでいてすごく微妙な味がある。そういうのを作ったことがありますよ。それを京都の「ゑり善」へ持っていきました。「ゑり善」がどう言うかと思って試しに行ったんです。そうしたら「ゑり善」の若旦那が-あまりはっきり名前を言ったらいけませんなあ(笑い)-「ああ、これはちょっと甘い」と言うんです。「着物には背筋が笑うから着物用にはできない。これはコートですね」。そのおっしゃっている顔をじっと見ていました。今のように目が悪くなっていないからじっと見ていました。ははあ、これは面白い、と思っている顔やということがわかるんです。ありがとうございましたと言って、それを下げて帰ってきました。向こうは売りに来たと思っていたんですね。作品を売りに来たと思っていたんですね。多分そうやと思います。「悪いけど私は試させてもらいに来ました。ありがとうございました」と帰りました。和服はこういう調子と。パッと頭の中へ入れました。それから洋服をどんどんやりました。ショールはもちろんやりました。
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