これは自分で得たお金だ。
大学出の初任給に近い額をもらった。
いくらお金に淡泊な私でも、
自由に使えるお金を
初めてもらった喜びは大きかった。
私は、
思いきり、
好きなだけ、
糸を買った。
そして、
糸の山の中で、
楽しく、
また次の作品を
織り始めた。
そんなある日、
旧友から
電話があった。
「城さん、
あんたのショールな、
9800円で売ってはるよ」
と
いうことだった。
「えっ、
あの材料費、
100円か150円よ。
それなら百倍やないの。
嬉しいなあ」
お金はともかくとして、
それだけの値段がついたことが
嬉しかった。
昭和45年のことであった。
こんなに高価に買って下さって
申し訳ないと思った。
私の楽しみかすなのに、
と
思った。
もっと安くてもいいですよ
と
言いたいほどだった。
「“さをり”と銘のついたショールは、
お店に出せばすぐに売り切れる」
と
店のご主人も大喜びだった。
道理で、
次に持参した時は、
もう1枚も店に残っていなかった。
ある日、
たまたま、
そのお店の前を通るチャンスがあった。
恐る恐るのぞいてみた。
と、
大きなショーウインドーに、
川の流れのように、
私の織ったショールが
飾られている。
まあ、
これがあのショール!
信じられない立派さである。
見ていられなくて、
足早に通り過ぎようとした。
すると、
もう1枚、
黒いエナメルのハンドバッグに
からめて飾ってあるのが
目についた。
私は
恥ずかしくて、
振り向きもしないで
通り過ぎた。
『わたし革命 ~感性を織る~』 城みさを著
(神戸新聞出版センター 1982年刊 ※絶版)より
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