そこで、もう一つ決定的な私の着想ですね。気のついたところ、それを申しますと、今、社会人になっている孫が-私の長男の息子ですけど-その孫が小学校一年、二年、三年の時分に油絵の個展がありました。その先生の油絵の個展、それを私は見に行ったんです。「城さん、お宅のお孫さんのような時はね、こんなすごい絵を描くんですよ。ピカソみたいな絵を描くんです。三歳児はピカソと言います。お孫さんくらいの時はこんなすごい絵を描くんです。五年、六年になると、こんなつまらん絵になるんです」。その絵は何かというと、ウィスキーのビンの横にリンゴを描いてあります。ウィスキーのビンはビンに描けています。横にリンゴがあります。影がちゃんとあります。まともな絵です。その次、先生のおっしゃった言葉が私の頭にキューンと入った。「五、六年になると描けるから描いて しまうんです」。えらいことを言いました。そうか。うちの孫の時は描けないから夢を描くんだ。だから抽象画になるんだ。「面白い」と頭の中に入ったんです。全部描けるから描いてしもうて普通の人間、ただの人間になっていく。そりゃうちの孫の時は描けないから夢を描く、その夢が素晴らしいんだ。それで先生に、「うちの孫ぐらいの年で留めるわけにはいきませんか」と、ものすごい愚問を言うたわけ(笑)。できるはずがないんです。できたらおかしいんです。だからそれは不可能も不可能も、まるで不可能な話ですけれど迂闇に聞き逃せない話なんです。
コメント