母は車から降りると、
一目散に
機の前までやってきて、
曲がった腰を
しゃんと伸ばし、
早速、
トントントンと
勢いよく織り始めた。
まるで
娘時代に帰ったように、
目は生き生きと輝き、
トントン、
トントン、
次から次へと
織っていく。
その様子を
じっと見ていた私は、
ああ、
それほどに織りがしたかったのか、
母が生きているうちに
織りを始めてよかった
と
しみじみ思った。
女は
太古から
織りをつづけてきた。
それが、
明治が終わると同時に、
機械にとって代わられた。
産業革命は、
女から機織りを奪ったのだ。
織りは、
女の仕事として、
たしかに一つの重荷ではあった。
しかし、また、
楽しみでもあったのだ。
そうだ、
私たちは今、
その楽しみだけを
取りもどそう。
もう一度、
女の手に
織りの楽しさを
取りもどそう。
母を見つめながら、
そう思わずにはいられなかった。
『わたし革命 ~感性を織る~』 城みさを著
(神戸新聞出版センター 1982年刊 ※絶版)より
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